カンゲキ記

夢のひとときに感謝

大きな虹のあとで~不動四兄弟~

研音所属の若手俳優さんを中心とした座組。


研音というと、映像メインの事務所なイメージがあったので
小劇場系の舞台を主催するということにちょっと驚きがありました。
若手の研鑽の場でもあるのかな?


『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』は、特攻隊に志願した四兄弟と
それを取り巻く人々の物語。
研音さんでの主催は今年で2回目だそうですが、これまで色々な
カンパニーで20年近くに渡って上演されている作品だとか。
国内の舞台は様々なものを見てきたつもりでおりましたが
全く知らなかった作品です。


演劇、まだまだ奥が深い!


戦況下という、私たち現代人からすれば非日常な暮らしの中での
ごくごく普通の日常を切り取った物語。
特攻兵のお話しということは、日本が疲弊しきっていた時期です。
しかし、怖いとか辛いとかひもじいとかそんな描写が格段に少なく、
戦争物にしては緩い空気が漂う場面が続きます。
そんな何気ない日常、彼らのとびっきりの笑顔を前半たっぷりと
見せつけられてしまうからこそ、後半加速度的に展開していく状況の変化に、
若者の未来を奪ってしまった戦争の恐ろしさややるせなさ、
何より憤りを強く感じずにはいられません。


若い俳優さんばかりということもあり、お芝居に関しては
青いというか粗いというかそういう部分もありましたが、結果的に
懸命にその時代を生きた、生きたかった若者の空回る思いや
やり場のない悲しみというのがリアルに感じられるものでした。
衣装も舞台美術も最小限に抑えられたシンプルな設え。
飾りなく自分をさらけ出さねばらない状態。
ごまかしが利かない中で演技するのは怖いだろうなぁ~って
思います。初日はその緊張感がひしひしと伝わってきましたが、
日に日に役への寄り添い方が深くなっていく姿に頼もしさを感じました。
吸収力と瞬発力の高さにも感動。


四兄弟や彼らと交流する女学生四人を見守る大人たちとして
津江新平さん、愛原実花さん、そして合田雅吏さん。


津江さんは、四兄弟の俳優さんたちとあまり年の変わらない
まだ若い俳優さんですが、上官(平山少佐)のお役です。
アクティングコーチを務めていらっしゃることもあり、
その謎の貫禄との安定感たるや!
パンフレットの生年月日2、3度見直してしまいました(笑)
コメディリリーフとしてほぼアドリブで突っ走るお芝居でしたので、
もっとどっしりと腰の据わった役柄も拝見してみたい次第。


愛原さんは主にストーリーが展開されるお茶屋のおばちゃん。
おばちゃんと呼ぶにはあまりに可愛らしい雰囲気。
特徴的でよく通る声が、チャーミングな性格の女性をより一層
魅力的にしているようでした。
ツカイズム(ヅカイズムも)を感じる熱量のある確かな演技で
物語を引っ張ってくれます。


そして、合田さん。
四兄弟の所属する部隊に新しく配属された木下大隊長
兄弟の育ての親である不動太陽の部下であり、
実は、兄弟たちと意外な繋がりのある人物。
彼の登場により、物語が一気に動き始めます。
登場場面は多くないものの、シリアス・コメディの緩急、
大人のかっこよさ、懐の深いお芝居を存在感たっぷりに
魅せてくださいました。


…まさかの鳩。想像もしなかった鳩。。巧すぎです、鳩。
「ホーホーホッホー」って鳴き声に感動すら覚えました(爆)


私的にはこれだけでもこの舞台を観た価値がありましたよぉ(笑)


そしてそれ以上に、前途あるはずの青年たちを自らの手で
送り出さねばならぬ使命とその苦悩が交錯する表情や、
せめて彼らが未練を残さず逝けるようにとの願いが
感じられるキッパリとした短い敬礼。そんな複雑な胸中を
覗かせるお芝居に、戦争は若者のだけでなく、彼らを
指揮する立場の人間の心をも殺める悲惨なものだったと
改めて痛感しました。

 

劇中、おばちゃんが平山少佐に「木下」の名前を告げられ
ハッとする場面。
おばちゃんが女学生に思いを伝えることの大切さを説いた後
亡き兄に向かい「私も思いを告げていたら今頃・・・」と呟く場面。


おばちゃんは、兄を慕って遊びに来ていた木下さんに思いを寄せて
いたけれど、木下さんは幹部候補生。上官の薦める相手と結婚する
ことになり、思いを告げられずにいたのかなぁ?
そんな物語を勝手に想像し、カーテンコールで木下さんに優しく
差し出された手に満面の笑顔で応えるおばちゃんの姿に、
あぁよかったなぁと救われた気分になりました。


もちろん、↑は表立って語られたストーリーでもないですし、
私が勝手にそう読み取っただけなんですけど、世相や立場によって
言いたくても言えない。大人たちの中にもそんな切ない事情が
あったのではないかと。

 

いや、そんな事情なくっても合田さんにあんな優しい笑顔で手を
差し伸べられたら誰だって飛びついていくと思うけど!!(笑)

 

観客に想像の域を与えてくれる、大人組の行間たっぷりのお芝居
素敵でした~。ありがとうございました!

 

そして、若いパワーにも感謝。
この夏、なりふり構わず舞台を駆けずり回った8人の新星たちが
いつまで輝き続けられんことを願っています!!