カンゲキ記

夢のひとときに感謝

歌舞伎座二月大歌舞伎 夜の部『籠釣瓶花街酔醒』

2/11 建国記念日
二月大歌舞伎夜の部を観劇。

楽しみにしていた『籠釣瓶花街酔醒』

先月から会社の最寄り駅に吉右衛門さん扮する次郎左衛門のポスターが掲げてあり、
観劇をワクワク待っておりました。


籠釣瓶、まず第一のお楽しみは何といっても視覚的な華やかさ。
幕開き、チョンパで桜満開の鮮やかな色街の風景が一気に飛び込んでくる高揚感。
次郎左衛門でなくとも、のぼせ上ってしまいます(笑)

さて、そこからの花魁道中。

九重を演じるのは梅枝くん。いやぁ、お綺麗お綺麗。
後半の八ツ橋や次郎左衛門に対する慈愛溢れる姿も丁寧ですごくよかったし、
今回の舞台はそれを見られただけでもホクホクとした嬉しさを感じる
ものとなりました。

八ツ橋は菊之助さん。
文句ナシの美しさ。見染めの場面の微笑に少し硬さが残るかなぁという
気もしましたが、気高さを感じるゆったりとした姿は圧巻。
しかし、ここまでの花魁がなんであんなことになっちゃうのか、
惚れた弱みというか、恋は盲目というか・・・あぁ哀れだわぁと、
悲劇の発端である花魁道中の美しさ・貫禄が破滅へ向かう物悲しさを
すでに増長しているように感じました。

その八ツ橋さんの恋のお相手栄之丞サンに菊五郎さん。
こちらも文句なしの二枚目ですが、お二人が並ぶとまるでお雛様(親子だけど・笑)の
ようで少し清潔すぎるかな?
栄之丞ってイイオトコなんですけど、ゴロツキで有名な権八の言うことを真に受けちゃって
(まぁ、この権八が八ツ橋の身元引受人的な人物なので仕方ないっちゃそうなんですが)
嫉妬して気持ちが収まりきれなくて、八ツ橋に当たり散らしちゃって。
全くお子様なんですよねぇ。裏を返せばそれだけ純な男ってことなんだけど・・・
アンタ、廓の女と付き合ってるなら、お客とのアレコレもぐっと飲み込まなきゃ。
浪人の身分で、八ツ橋を身請けするどころか、着る物から何もかも面倒みてもらっている
紐男クンなんですからねぇ(^^;「田舎大尽に請け出して貰ったはもっけの幸い、そこから
俺とランデブー」くらいの図太さが欲しいもんだわ(爆)
あくまで私の感覚ですが、現在の菊五郎さんだとなんというかどっしり構えたオトコマエ感が
前に出ちゃって、栄之丞の持つ精神的な不安定さというか、脆さが薄いのね。
すぐ身請けしてくれそうな安心感があるんだもの(笑)

で、八ツ橋は栄之丞失いたくなさに宴席で次郎左衛門に愛想尽かしを
してしまうワケですが。八ツ橋の焦りというか、もう自分でも何言ってるのか
どうなっちゃってるのかワケワカンナイヨ〜!感満載のヒステリックさがすごい
よかったです(笑)何より、こうするしかない自分に対する苛立ちというのが
ひしひしと伝わってきました。

あの花魁道中での一目ぼれからずっと、八ツ橋に身も心も(そして大金も)尽し続けて
きた次郎左衛門サンの心はズタボロ。田舎者で痘痕だらけの顔ながら、心は実に
スマートな御仁でいらっしゃいますから、どんなに大恥をかかされようが、この場は八ツ橋の
虫の居所が悪かったのだろうと、涙を堪えその場を治めようと努めますが、格子戸越しに
目があった男の存在に凡てを悟ります。
この場面の「あぁっ!」という声にならない声、ここ、ここですよ!!
八ツ橋突然の愛想尽かし、その全容を知ることとなるこの一瞬。これまでの出来事が
次郎左衛門の心の中で走馬灯のように駆け巡る場面。怒りでもなく、後悔でもなく、
諦めでもなく、なんなんでしょうね。なんとも遣り切れない思いが後の布石となるこのシーン。
やっぱり吉右衛門さんは上手いなぁ〜と唸ってしまいます。

そして4ヶ月が経ち・・・とうとうXデー到来ですよ。
この日まで次郎左衛門さん、何を考え生きてきたのか。

以前とある人物から貰った刀「籠釣瓶」を大事そうに抱えて再び、吉原へ。
あんな事があったにも関わらず、穏やかな笑みを湛え、全て水に流します。
今日からまた初会となって八ツ橋と遊びたいという次郎左衛門の様子に、廓の一同は
安堵の表情。

しかし、それは嵐の前の静けさ。

八ツ橋と二人きりになった次郎左衛門は、彼女の隙を突き、床の間に寝かせておいた
籠釣瓶に手をかけると、何かにとりつかれたかのような表情に変わり、八ツ橋の背中を
躊躇うことなくザシュッと袈裟斬りに。彼女は背中から倒れこみ絶命します。

いやっ、凄かった!この場面。ホント凄かった。

3階の最後列から見ていたにも関わらず、舞台がズズズっとこちらへ迫ってきたか
のような迫力がありました。

籠釣瓶は、妖刀伝説のある村正という設定なのですが、刀を抜いた瞬間の
吉右衛門さんの表情といい、場内の空気感といい、本当にあやかしに支配されてしまった
のでは・・・という錯覚に陥ってしまうほど。
そこに、菊之助さんの妖艶なる見事な海老反り。もしや八ツ橋は一瞬にして過去の自分を
悔い、己の死を素直に受け入れたのでは・・・と思えてしまうほどに美しい死に様でした。

又五郎さんの実直な治六や、彌十郎さんの憎々しい権八魁春さんの女将さんに
歌女之丞さんの遣り手オババなど、どこを切り取っても細かく行き届いたお芝居に加え、
梅枝くん始め、新悟くんや米吉くんなど若手女方の初々しい姿。
ミルフィーユの如く、何層にも重ねられた歌舞伎の旨みをじっくり味わえました。

ごちそうさまデシタ♪