カンゲキ記

夢のひとときに感謝

劇団NLT 喜劇『劇場〜汝の名は女優〜』

久しぶりにNLTさんの舞台を拝見。
サマセット・モームの『劇場』を池田先生の翻訳・脚本・演出で。

今回は、笑いの波がぞくぞくと押し寄せてくる王道の喜劇ではなく、
なんというか、人間が抗えぬ摂理や欲望を軸とし、少し物悲しさや
無常観も感じさせるお話。
女優そして女性としての衰えを感じ始めた主人公ジュリアの悲哀と、
それを取り巻く人々の自分本位な思惑が交錯し、そこにおかしみが
生まれる大人の喜劇でした。


とにかく、旺さんのオーラが圧巻。
女優そして女としての焦り寂しさ悦び、決意・・・
いろんな感情を迫力たっぷり、極めてチャーミングに。
もうそれだけで十分に贅沢な時間と空間を味わうことができた思いです。
いままでグズグズとくすぶっていた気持ちを発散させる最後の劇中劇の
カタルシスったらなかったです。
固唾を飲んで見守っていた客席に立ち込めていた雲が、途端にスカっと晴れました。
旺さんの存在なくしては成立し得ない舞台といっても過言ではないほど、
ジュリアそのものでいらっしゃいました。
まさしく、彼女のための『劇場』


己の出世欲のため、恋人を有名女優にするため、 ジュリアに近づき
親子ほども年の離れた浮気相手となる青年トムに溝呂木くん。
(お久しぶりに拝見しました♪)
溝呂木くんの初登場シーン、舞台上の空気がガラっと変わったのを感じました。
色が生まれたというか。華があるというのはこういうことなのかなぁと。
最後まで嫌なヤツでしたが、厭味のない存在が何故か爽やかで後味を悪くさせません。

そんなトムに憧憬を示していたジュリアの息子ロジャーは吉田くん。
女優である母と興行主である父の生きざまをどこか冷めた目で見ている少年。
加えて憧れのトムに対する失望。
思春期の繊細な心のゆれがよかったです。シニャックの爛漫さとはまた
違った愛らしさを見せていただきました。

もちろん、NLTのみなさんのガッチリとした脇固めがあるからこそ、
このストーリーが喜劇として成立します。
劇場のスポンサーで未亡人のドリーに安奈ゆかりさん。
お金持ちらしい風格に、ユーモアたっぷりの動きと表情。
この出オチ感はズルいけど(笑)やみつきなる面白さ。
そしてもう一人、出オチの神様(爆)平松さん。あぁ、ズルイズルイ。
ジュリアの亡き師匠にそっくりな大道芸人。終始司祭様のような出で立ち。

「いつまでその格好でいるの!?」

私も思わず呟いちゃいました(^^;

若手の皆さんも、ダフ屋に劇場スタッフ、タニマチ役、劇中劇に出る役者役など
一人数役で頑張っていらっしゃいましたが、ベテラン陣のゴージャスな存在感のせいか、
上流階級の人々(タニマチ)として見せるのはちょっと苦しかったかな(^^;
硬派な劇団で真摯にお芝居と向き合っているNLTの若い役者さんたちは
本当に好感が持てますので、もっともっと自信を持って堂々と演じて
いただきたいと思います。

そして何といっても、阿知波さんの存在感。
私がここで言うまでもなくやっぱり凄い女優さんです。
役どころとしては、20年間ジュリアの付き人をしている女性。
元女優だったとの事ですが、その面影は薄く地味で静かでジュリアに忠実な人物です。
衣装も暗めの色で、セリフも一言二言をボソボソっと呟く程度なのですが、
その存在感たるや!
ホントにジュリアに20年付き添っている空気を放っていらっしゃるんです。
全てを語らずともわかってるよって空気の出し方。
阿知波さんがそこにいるだけで、舞台全体に信頼を与えます。

生意気を言わせてもらえば、一幕が少しダレ感があったので
ブラッシュアップした再演を見たいなという気持ちになりました。
間合いの問題かなぁ〜?という気もしたので、楽日までにはもっともっと素敵な作品に
変化していると思います。

芸術の秋にふさわしい、紅葉のような鮮やかさと深みのあるステージでした♪