カンゲキ記

夢のひとときに感謝

劇団NLT『旦那様は狩りにお出かけ』

貿易商の富豪・ルシテルは「狩りに出かける」という
口実を使い、愛人の待つアテネ街40番のアパルトマンへ
足繁く通う。
その妻・レオンチーヌは、夫を疑うことなど知らず、
狩りの準備を手伝い、穏やかにその帰りを待つ。
そして、ルシテルの留守を狙っては、貞淑
レオンチーヌを口説き落とそうとする若き医者モーリス。
彼の亡き父はルシテルと親友で、今はモーリスと
ルシテルが親友の間柄。

今日もルシテルは友人カサーニュと連れ立って
狩りにお出かけ。
モーリスは「ご主人は、狩りに行くといって浮気を
しているんだ」とレオンチーヌに嗾ける。
全く取り合わないレオンチーヌだったが、そんな折、
ムッシュ・カサーニュが突然の訪問。
今宵、妻の浮気の証拠を突き止める故、ルシテルに
証人になって欲しいとの依頼。

「夫はあなたと狩りにでかけたのでは?」

ルシテルとはしばらく会っていない、
自分は狩りは嫌いだと断言するカサーニュ。
夫の不義を確信したレオンチーヌは、仕返しとばかりに
モーリスの誘いに乗り、アテネ街40番の
彼のアパルトマンへ、躊躇い恥じらいつつも
足を踏み入れる。
しかし、そこにいた人々は・・・


いかにもフランスらしいちょっとバカバカしくって
洒落の利いたストーリー。


一幕目の衣装、小道具、セリフ、登場人物の動き・・・
全てに伏線が張り巡らされていて、何一つ見逃しては
なりません。
後半、それらの伏線が次々つながり、ホロホロホロ〜っと
心地よく解けていく快感を最大限のものにするためにも。
いやぁ、もう気持ちいいったらないんですって。
少し前「アハ体験」というものが流行りましたが、
この舞台はアハの泉ってカンジ。滾々と湧き出る出る。
さすが、ブールヴァールの傑作と言われるだけの作品だと
思いましたが、この軽妙さは池田先生の脚色に
因るところが大きいのでは・・・と推察されます。
絶対に毎日観ても飽きない自信がある(笑)

呑気に友人の妻とW不倫をしていたルシテルが、
窮地に立たされていく際の狼狽ぶりと往生際の悪さ。
人間の愚かで間抜けな姿を余すことなく堪能(笑)
加納さんが演じるオロオロおじさん、やっぱり楽しいなぁ。
呆れるほどのマヌケさなのに、決して憎めない姿が
ホントにチャーミング。大好き。

大人しい人を怒らせるのが一番怖いと言うけれど、
健気で貞淑なレオンチーヌがプッツンと切れた時の怒りの表情。
まるで今までとは人が変わったよう。
カサーニュさんのセリフを借りると「奥さんが壊れた」
それでも狂おしいほどに可愛らしかったけど(笑)
アフタートークでお話された永吉さんのおっとりゆったりとした
雰囲気からは想像もできない。
やっぱり女優さんって凄いし怖い(笑)
しかし、コロコロと鈴を転がすような声、恥じらう瞳、
可憐な仕草・・・男心をくすぐりまくりますな、ありゃ。
云わば恩人の妻だというのに、モーリスが口説き
落としたいと思う気持ちもよくわかる。

この一件には全くの無関係、部外者であったハズの
ルシテルの甥ゴントランは、知らず知らずのうちに事件に
巻き込まれ(自分では巻き込まれた事に
気づいてないけど)色んな偶然や勘違いが重なった挙句、
警察のご厄介となってしまいます。
(最終的に一番オイシイ思いをするのも彼ですが)
おつむはあんまり良くなさそうだけど(^^;恐るべき
ポジティブ思考の青年を、天真爛漫な笑い声と
飄々とした姿で演じる亀井さんのお陰で、
いいのか悪いのか彼に同情的な視線を送る気には
なれません(笑)ゴントランが部屋にひょっこり姿を
現すだけできっとまた何かが起こる!そういう期待感を
持たせてくれます。彼もまた憎めない青年です。

そして、合田さん演じる若き医者モーリス。
若く美しく有能(そう)なお医者様ですが、
人妻にモーションを掛けることが専らの日課
もー、素敵すぎてねぇ…何から書いたらいいのやら…
とにかくキザで最高にかっこよくて、殊更可愛くて。
「ねぇ、レオンチーヌ?」
年上のうぶな奥方を試すような、一方では甘えるような
囁きにこちらの胸も高鳴ります(笑)
感情に合わせて、表情も声色もクルクルと変わっていく
自在さに目が離せませんでした。
(瞬きしたら、その表情を見逃してしまうんじゃないかと)
しかし、何といっても膨大な台詞量に圧倒されました。
アフタートークの折「セリフの中にキーワードがたくさん
散りばめられているので、(台詞を)落とさないように
すごいプレッシャーだった」とおっしゃっていましたが、
台詞を落とさないどころか全く澱みなく、おまけに
アドリブまでちょいちょい挟んでおられましたがな!
ブリドワ警部を追い返すためにつく嘘。
これも合田さんのアドリブだったのか、毎回異なる
アクションで大爆笑。楽日の野うさぎと穴うさぎは
可愛すぎたー。
加納さん、うさぎ跳びさせられてお気の毒(^^;
伸びやかな歌声も、渾身のあのギャグも、
川端さん演じるブリドワ警部のモノマネも驚きと
爆笑の連続。
またまた新たな面をたくさん見せて頂きました。


悪気はないけど事態を悪化させた張本人、
アパルトマン管理人のマダム・ラツール。
物わかりがいいんだか悪いんだかよくわからない
パリ市警ブリドワ警部。
どこからどーみても、ルシテルに妻を寝取られたことに
合点がいく(汗)ムッシュ・カサーニュ。
彼らの存在があるからこそ、パリの匂いが
より一層強まります。

お若い方にもぜひ見て欲しいNLTの俳優さんたちの
お芝居。日本でこんなにオシャレにブールヴァールが
できる劇団、他にないですよ。


而して、舞台は夢だ。
あのパリの空間がたった5日で消えてしまうんですもの。
夢をみていた気分だ。
儚いからこそ、キラキラしたまま心に残るものかも
知れないのだけれど。

それでも、もう一度モーリスに逢いたい。