カンゲキ記

夢のひとときに感謝

名探偵ポワロ『ブラックコーヒー』

アガサ・クリスティが初めて自分で手がけた戯曲です。
そして、アガサ戯曲の中で唯一ポワロが登場する作品。

アガサと言えば、推理小説が大好きだった小学生の頃、新しくなった学校の図書館に全集が入り、
その真新しい本を競うように読みました。小学2年の頃から、乱歩一筋だった私には、
海外の推理小説は、登場人物がひどくお洒落に感じて、気後れしそうでしたが、子供ながらに、
アガサの女性らしい細やかな文章に惹かれ、夢中になりましたねぇ

・・・私が小学5年の頃、文集に書いた将来の夢は

「探偵」(←)

多分、マープルに魅せられたのだろうと思います。そして、幼い頃からの憧れ、少年探偵団の
紅一点・明智先生の姪のまゆみお姉さま。

影響されすぎだろう、自分(笑)

現代の日本で、ポワロやマープルや明智小五郎のような探偵稼業が成り立つと
思っていたのであろうか。我ながら呆れますな。

そんなカンジで、幼き日の思い出を秘めたアガサ作品ですが、上述したように、
ブラックコーヒーは戯曲なので、読んだことがありませんでした。
全集などには収められていないかと思います。しかし、戯曲も戯曲を小説に
起こし直したもの(小説版はチャールズ・オズボーンが 執筆しています)も
出版されていますので、観劇にあたり、両方読んでみました。

・・・と、いうワケで、今回結末を知ってから、エイモリー邸にお邪魔したワケですが。。
(ネタバレ観劇大好きなんです・汗 物語が入っているほうが、お芝居の細部を注視できるので)


まず、予想通り、私の大好きな三越劇場の設えと、舞台に現れたエイモリー邸の
内装の調和が見事です!本当にイギリスの豪邸に身を置いている感覚。
先月の『お嬢さん乾杯』の痛んだ洋館(^^;もよかったですが。

なんかもっとお洒落してくればよかったなとか、金髪のカツラをかぶって
くるべきだったかなとか(不要です)とにかく、自分もエイモリー邸に招かれた客のつもり、
いやメイドあたりで・・・というか、家政婦は見た的な気分で、一家に起こる事件を
「おや?まぁ!ねぇ、はるみちゃん。。」と心の中で呟きながら・・・
ごめんなさい、冗談です。ホントは、手に汗握るくらい、拳をぎゅっとして、
何も逃さぬ思いで必死に見ましたよ!えぇ、3回もね!!(笑)

お芝居自体は、奇を衒う部分が何もない、正統派の古典劇。
故に、この豪華でゆったりとした空間が
より心地よいものに感じられます。
一幕目は事件の発端。事件の概要・人物関係・・・説明することがたくさん。
一辺倒になりがちなシーンも、役者陣の台詞の巧さ、聞き取り易さで上手にカバーされていました。
よくぞ、ここまで声のいい役者さんを揃えたな・・・と感心(笑)
もちろん、みなさんそのビジュアルもとってもステキなのですけど、
オーディオドラマでも十分に成り立つと思うほど。気持ちがしっかり声に乗り、声がしっかり心を表し。
みなさんズンと心に響く声でうっとり聞き入ってしまいました。

二幕目からはいよいよ謎解き。核心に触れていくワケですが、、
ここからは、ポワロの鮮やかな手ほどきで、ググググ〜っとお芝居にのめり込めます。
原作を読んでいて展開がわかっているにも関わらず、ワクワクドキドキ。
ミポリンもビックリするくらいwakuwakuさせてくれます(古)

三波豊和さん演ずるポワロの飄々とした雰囲気は、まさしくポワロ。
小説の中のポワロが好きな人も、スーシェ演じるポワロが好きな人も、
そこに居るのは間違いなくポワロだと感じるほどポワロ(意味不明)でした。
私は、三波さんと云ったら、はに丸の神田くんとか、いじわるばあさんの浪夫とか、
よろず屋の千太とか、おっちょこちょいキャラのイメージなのですが(^^;ちょっぴりイヤミで
自信家。だけど小粋な名探偵役が、非常に小気味よくハマっていらっしゃいました。
何より、三波さんのポワロは懐が大きく、優しさにあふれているところがステキ。
ポワロの相方・ヘイスティングスも、お約束通り、ポワロに 弄ばれてて(^^;カワイイ。
あくまでマイペースなポワロと、ポワロに負けじと頑張るけれど、やっぱり敵わないヘイスティングス
だけどお互い固い絆で結ばれた最高のバディ。
緊迫した事件現場ですが、二人のやり取りについつい頬が緩みます。

この物語のヒロインは、エイモリー家にお嫁にきたばかりのルシア。
今回の事件にあたっては、行動のひとつひとつが怪しく(感じられ)、
袋小路状態の彼女ですが、暗い過去を抱え、今を生きることに必死で、儚く切ないのに、
どこか強さを感じさせる気丈な女性です。
桜乃彩音さん演じるルシアは原作のとおり、黒髪が美しくたおやかな印象。
ヅカの娘役さんだったとのことですが、宝塚に大して明るくない私が、自分勝手に
イメージしている娘役さんとは(良い意味で)
異なった雰囲気で、甘すぎない
凛とした面立ちがいいなぁ〜と思いました。カーテンコールやアフタートークなど、
役を離れての屈託のない笑顔もナチュラルでとても愛らしい。
ちょっと目があっ(た気がする・・・)て、ニッコリされちゃって、
これまた勝手にドキドキしてしまいました(^^;

そして、合田雅吏さんが演じるのは、ルシアの旦那様。エイモリー邸の若様・リチャード。
一癖も二癖もある登場人物たちの中で、最もストレートな人間だと思います。
周りが壮絶に・胡散臭く・大げさに・コミカルに演じる中、ひたすら妻を愛し、
それゆえ戸惑う男をまっすぐ・・・しかし、彼も父殺しの容疑者。妻への愛ゆえ、
終いには自分が犯人だと名乗りをあげてしまいます。
感情のベクトルをどこへ向けるか。振り切ってもいけないし、冷静すぎても容疑者にならない。
あの世界観の中で、クセの少ない人物像を演じるのは却って難しいのだろうなーと、
シロウトは考えてしまうワケです。
しかし、合田さんらしい丁寧でリアルなリチャードの姿に、今回も胸を熱くしました。
相変わらずキラキラと眩しいそのお姿にも、気持ちが高まります。
どう言えばいいのか難しいのですが、合田さんのお芝居って、気持ちをふっとその世界へ
引き込んでくれるのです。実にさりげなく。だから、いつも安心してニュートラルな心で
客席から板の上に、気持ちをすっかり預けることができるのが楽しいし、心地良いんです。
そのお陰か、合田さんと一緒に舞台やドラマにご出演された俳優さん・女優さんの事も
もれなく好きになり、その後も陰ながら応援してしまう私です(^^;

今回もポワロにご出演されている俳優さん・女優さん、みなさん大好きになってしまいました。
だから、マウストラップも観たくなったし、彩音さんもご出演される(真琴さん原案の)宝塚
OGミュージカルも観てみたい。千太郎さんの狂言も、SETや俳優座のお芝居だって観たい!
・・・こうやって、観劇欲がムクムク溢れ出しちゃって万年飽和状態さ(−−;

とにかく、心にすっと入ってくるお芝居でした。
ストーリーは現代のミステリーやサスペンスからしたら、至極単純です。
でも、しっかりとカタルシスを覚える。

ラスト、リチャード・ルシアの若い二人は、新たな幸せのため、手に手を取って・ルルルル〜♪
お二人の新緑のような清清しい笑顔が、いつまでも心に残り、大変後味のよい観劇となりました。