カンゲキ記

夢のひとときに感謝

『綺譚 桜姫』

土曜日に初日を迎えたと思ったら、明後日はもう千秋楽の桜姫。
なんだか、あれだけの作品を、たった5日間で終わらせてしまうって、
ホントもったいなぁぁぁい。
回を重ね、練られて、段々良くなる雰囲気のお芝居だったから。
美術も素敵だったので、いつか再演がある事を願います。

では、そろそろ舞台の所見&感想をば、、偏った見方でスミマセン。
随分長文となってしまいましたが、しばしお付き合いくださいませ。

物語は鶴屋南北原作『桜姫東文章』がベース。
その中の主要人物、桜姫・清玄・権助の3人のみで、物語が繰り広げ
られます。歌あり踊りありですが、核になる部分は台詞劇。
メインのお3人さんは出ずっぱりで膨大な台詞量。
ただ、台詞の応酬ってよりは、それぞれの独白的な雰囲気でした。
とりあえず一番世間ズレしている(あくまで3人の中では・汗)
権助ストーリーテラー的役割も担ってます。

まず、歌舞伎版と今作の目立った設定の違い。

<歌舞伎版>
・桜姫の弟、松若と梅若。
梅若はお家再興のため、都鳥一巻を探索中に忍ぶの惣太(釣鐘権助
に殺害される。(松若はお家再興のため奔走中)

・清玄は元弟子の残月に青トカゲの毒を盛られ、衰弱した挙句、
桜姫に心中を迫り、揉み合いとなるウチに、包丁で喉を突き、
死んでしまう・汗

・清玄と権助は実は兄弟だった。



<今作>
・桜姫の兄、松若と梅若。
桜姫の生まれるずっと前、二人は何者かに拐され、行方知れずに。

・桜姫を返せとせがむ清玄は、権助に青トカゲの毒を飲まされ、
暴行を受け、殺されてしまう。

・清玄と権助、実は松若と梅若であった!
忍ぶの惣太という人買いに拐された後、松若は寺へ売られ、
梅若は惣太の跡目として育てらる。


・・・いやぁ、この脚色は凄いと思いました。
3人が兄妹であったことにより、悲劇は2倍にも3倍にも増幅。
すなわち、桜姫と権助畜生道に堕ち、清玄は逃れられない縁に
雁字搦めとなった末、命を落とす。

もう、誰も救われない・汗
なんなんだ!?

しかし、すっごい悲劇なのに、その退廃っぷりが甘く、美しい
とさえ感じてしまう・・・イケナイ・汗


男性と女性のコロス。
女性コロスは、歌舞伎で言えば花四天的な役割(いや、立ち回らない
ケド)大原女のような出で立ち。
男性8人は、桜姫の運命の糸を操る何か。うごめき、語り、歌う。
白装束に、顔には不秩序な2、3本の白いライン。
女性が明な桜の精なら、男性は暗な桜の精ってところ?
死んだ吉田少将の霊(朝廣さん)・桜姫の兄、松若(らいちょうクン)、
梅若(祀武憙クン)の幼少期の幻影となって現れる場面も。
らいちょうクンの太刀筋が綺麗で、お顔も凄くお綺麗で(笑)
合田さんの清玄と、らいちょうクンの松若・・・シンクロする2人。
シンプルな場面ですが、華があって大好き。

この男性コロスの存在がめちゃくちゃカッコよかったです。
舞踏と舞踊の組み合わせは以前、福助さんの『女と影』で拝見して
いいなぁ・・・と思っていたのですが、やはりとても相性が
いいようで。
メリハリのある舞踏が、停滞する和の空気をパキパキと斬り裂き、
心地よかったです。
男性コロスの動きは、バレエ、コンテンポラリー、歌舞伎の立ち回り、
剣舞、そしてもちろん日本舞踊と、様々な要素が調和されていて、
また新たな型が生まれているかのようでした。
・・・こういうの単純に凄く好き(^^;

それから、下座がシンセとパーカッションっていうのが面白かった。
録音ではなく、ちゃんと下座でやったのが歌舞伎っぽくていいなぁと。
パーカッションで附け打ちも表現されてました。

桜姫の悠河さんは、橘の香りが漂うような、すっきり、キッパリとした姫。
原作(歌舞伎)から感じる、幼さ故の、残酷さと順応性というよりは、
自立した女性として、現代的な雰囲気を醸し出していました。
赤姫の打ち掛けは、宣材写真と同じものでしょうか?だとすると
玉三郎さんが以前着用されたものだそうです。
回想で、前髪の白菊丸の扮装もありましたが、さすが元・男役。
この人のニンはこっちなんだろうなぁ、とその美しさに
見惚れました。
もちろん、桜姫の赤姫姿もとても綺麗なんですが、前髪のお稚児さん
の方が色気が数倍上な気がします。
歌舞劇(オペラ)と銘打たれた舞台でしたが、お歌はごくわずか。
桜姫の歌と、コロス(森田さん)の歌のみ。
桜姫が歌う曲調は、オペラっていうよりタカラヅカでしょうか(なんじゃそりゃ?)
ファンサービス的な側面もあるのかなぁ?
悠河さんが歌っている時、客席のファンの皆さんのキラキラとした
瞳がとても印象に残っています(どこを見ているのか・・・)
これが、宝塚のトップたる所以かと。いいですね、客席からあんな
熱視線を浴びせられるのは、役者冥利に尽きるとおもいます(^^)

須賀さんは、お髭が生えてワイルドな権助。私の知っている須賀さん
よりもムサムサ(^^;した、すっごい悪い男です。でも、桜姫が
惚れ込むのが十分納得できる色気・・・説得力がありました。
とにかく、台詞がすごくいいなと。結構ペラペラと喋っているの
ですが、客席を置き去りにしない、間の良さと強弱。声も良くって、
あぁ、やっぱり上手い役者さんだなぁと。でも、できれば台詞だけで
なく、彼の舞踊もみたかった。
すっごい上手なんですよ。『蛇炎の恋』で福助さんのお弟子役を
演じられた際に、二人道成寺を踊られたのですが、その美しい女方
拵えはもちろん、踊りもとても綺麗で。福助さんと一緒に踊っても
違和感なく、驚いたのを覚えています。
どーにも危うげな性格の(^^;桜姫と清玄を、ある意味で
リードする、頼もしき権助さんでもございました。

そして、合田さんの清玄阿闍梨サマ。
まず、第一声。台詞回しが歌舞伎調で、ビックリした!
相変わらずの研究熱心さがヒシヒシ。
他のお2人はどちらかといえば、現代劇の口調なので、一人だけ
不思議なカンジもするのですが、年長者である事や、俗世から離れた
お坊様、どーにも精神状態がまともじゃない人(^^;っぽさが、
その抑揚から窺い知れて、なるほどなと得心。
そして、何といってもその立ち姿の美しさといったら・・・
阿闍梨サマの重厚な雰囲気もさすがといったところですが、
破戒堕落後のなんとも心もとないお姿が、そこはかとなく刹那くて、
別段綺麗で。
橋の袂に置いた赤ん坊を、よいしょっと抱き上げる時、ちゃんと、
腕に重さを感じる抱き方をしているのが、合田さんらしい細やかさ
だなぁと、感動。
その子の重みはきっと、清玄サマの桜姫(いや、白菊)に対する
愛の重さ?なんて思ってみたり。
爪の先にまで心の通った演技に、最期まで清玄サマの徳の高さを
感じました。
終演後、握手をしてくださった合田さんの両手は、もちろんとっても
温かでした。

清玄が絶命寸前に見せた実の弟への思慕。実の弟恋しさに芽生え、
暴走してしまった白菊への愛情。そして、その白菊の生まれ変わりで
ある桜姫へのストーカー行為(^^;全ては、実弟を思うあまりの事
であったのに、結局は、その実弟に命を奪われてしまう。
・・・悲しすぎる。
清玄は亡霊となって、桜姫の枕元に立つ事になりますが、それは、
桜姫が女郎として、色んな男と枕を交わすのが悔しいワケではない。
きっと、3人のどーにもならない、破滅へ進むしかない運命・縁を
悔い、断腸の思いで桜姫に都鳥(今作では宝刀です)の在り処を
指し示す。
梅若(権助)に殺された報いで、桜姫に刀を持たせたわけではない。
畜生道に堕ちた弟妹、そしてその間の子供を救うには、それ(死)
しか方法がないという親心からでは?・・・という、勝手な解釈(^^;
この時の清玄サマの気持ちは、『三人吉三』の和尚吉三の思いと
重なる部分があるんじゃないかなぁ〜、なんて考えながら見てました。

桜姫が自害しようとした瞬間に放たれた一筋の光には、どういう
意味が込められているのか?桜姫の命は消えたのか、それとも・・・
運命の糸を操っていた白装束が、桜姫に絡みつく赤い糸を次々と
断ち切ったということは・・・きっとそういうことだと、信じています。