カンゲキ記

夢のひとときに感謝

劇団NLT『マカロニ金融』

「この銀行、あなたの常識が音を立てて崩れます」

そんなコピーが冠された劇団NLT『マカロニ金融』

主人公のファブリッツィ氏は、借りた人には年3分だけ、
預けた人には年3割もの利息をつけるという無謀な金利でウワサの金融業者。
常識的に考えれば、あっという間に破綻してしまいそうなオカシな話ですが
毎日多くの人が列をなし、大盛況。
ファブリッツィ氏は人々に怪しまれるどころか、奇跡の人・聖人と崇められる始末。


ある青年は新車購入のために借金

あるご婦人は娘の結婚資金を増やすべく預入


一般市民はもちろん、教会の司祭様に至るまで
ローマに住む様々な人が彼にお金の相談にやってきます。


あべこべな金利をして、どうしてこうも円滑にお金が回っているのか・・・


当然、訝しむ人間も出てくるワケです。

ローマで一番偉いシスター(奇跡を起こすのは神のみぞ!)
大手銀行の若頭取(自分ところのお客が流れて憤慨)
経済警察の警視(警察としては黙視できない)
そして、街のおまわりさん(手柄を上げて出世したい)

様々な思惑の人間が、彼の本性を見破ろう、詐欺罪で立件しようと
調査を開始します。

それでも、ファブリッツィ氏はマイペース。

なぜ、借りた人には年3分だけ、預けた人には年3割もの利息をつける
ことができるのか?その問いに対しては

「私がそうしているから。ただそれだけのこと」

もし、お金を預けた人が一斉に返してくれと押し寄せたら、約束の利息をつけて
全員に返すことができるのか?

「そうなったら、そこから先が見ものですね!(ちょっとワクワクした顔)」

掴みどころのないふんわりとした空気と、いつも絶やさぬ穏やかな笑顔
その澄んだ瞳の奥に潜む正体は、悪魔か?詐欺師か?はたまた神の化身か?

そんな時、札付きの不良少女アメリアが彼の屋敷に不法侵入。
これ幸いと、巡査のネロがアメリアにスパイになるよう持ちかける。

上手いこと家政婦として屋敷に潜り込んだアメリア。

聖人と呼ばれる男と不良少女の奇妙な共同生活が始まって・・・

 


氏とアメリアの出会いから物語が急展開していきます。
そして、窮地に立たされるファブリッツィ氏。
しかし、そんな中でも彼は基本マイペース。
ただ、アメリアに対する自分の気持ちに気付かされてからは
少しの動揺も見られます。

そして、お互いが足りない部分を補い合うかように愛を育んでいきます。

 


触れようとしてもすり抜けてしまうような透明感。
何事も見通してしまいそうな澄んだ眼差し。
誰に対しても公平で丁寧な応対。
そして何より心がピュア!

清潔感溢れるファブリッツィ氏は、本当に合田さんらしいというか
イコールではないのかと錯覚してしまうほどハマっていらっしゃいました。
優しく甘い声がこれまた氏のキャラクターにピッタリで!
こういうノーブルなお役いいですよね。加えて今回のふんわり感。
清らかでとっても合田さんらしい役柄だけど、それ故に恐ろしい裏のある男の
ようにも思えて…同じ空間にいるハズなのに、全く別次元の存在のよう。
また新たな一面を拝見できた気がして嬉しい限り。

氏の言動、行動を見ていると、自身の物差しがいかに短く、目盛がいい加減な
事かと痛感します。自分の物差しで計れる物(者)に捉われず、そこから
はみだした物事に対しても寛容でいたい。
ううん、物差しなんて必要ないのかもしれない。
ありのままを受け止め・受け入れる広い心の持ち主になれるといいなと
思いました。

不良少女のアメリア。街でも有名な札付き娘。
貧困故に、たくさんの辛い経験をしてきた可哀相な娘でもあります。
しかし、小動物のようにちょこまかとしたコミカルな動き
コロコロと鈴の音のようなかわいらしい声。
喜怒哀楽、ストレートな感情表現。
氏があっという間に恋に落ちるのも必然のチャーミングさでした。
演じた凪ともこさんは、『恋の冷凍保存』での飄々としたメイドさん
とっても可愛くておもしろくて、素敵だなぁ~と思っていましたが、
今回はその魅力を余すところなく堪能できたような気がします。
登場時のヘアスタイルは、初代アメリア役黒柳徹子さんへのオマージュかな?
と思ってしまいました(^^;お団子ヘア。

その他の登場人物も皆多彩で個性的。
ネラ巡査(亀井さん)のどんなに頑張っても一生出世できないだろうという
スットコドッコイな感じとか、パコ警視(加納さん)の華麗な手のひら返し、
シスター(葛城さん)の表情、動き、声色…
まさしく一挙手一投足がおもしろい。
全く異なる価値観ながら、愛する娘を思う気持ちは同じの
孔雀さんと鶏さん(笑)母の愛は普遍だと気付かされます。

軽妙な彼らの存在のお陰で、この作品が浪花節ではなくエスプリの利いた
ブールヴァールとして成立。
何より、NLTの役者さんは声がいいのと、所作が美しいのが
気持ちがよくて楽しい部分。

初日は何とか理解しようと脳みそフル回転で観劇したのですが「?」だらけ。
以降「眼前で起きている事にただただ身を委ねてみよう」と
気持ちをラクにして眺めていると、台詞や動きが懐にストンと落ちる
心地良い感覚が増しました。


結局、ファブリッツィ氏のからくりはというと・・・

それは、

「人を信頼し愛する心」

なのかなぁ?

彼に嫌疑をかける人々の弁舌に対する悲壮な表情、
アメリアとネロ巡査への「信じてる」という声が印象的で
強く胸に残っています。


ラスト。ここが抱腹絶倒。
無事新車を購入できた青年の下りは、庶民にとって本当に胸のすく展開でした(笑)