カンゲキ記

夢のひとときに感謝

乃木坂倶楽部五ツ目公演『スペシャル・ディナー』

乃木神社の目の前にある、小ぢんまりとしたシアター・バー、
コレドでの上演を観劇してきました。

上演を待つお客さん(観客)がドリンク片手に、心地よい会話に
身を委ねていると、またひとり新たなお客さんが。これまで、場内で
オーダーを取っていたウエイターさんがそのお客さんを場内
中央の席に案内するのが、このお芝居の始まりの合図。
そう、新たなお客さん(由地さん)とウエイターさん(小野さん)は
このお芝居のキャスト。

というわけで、実は私たちが、シアター内に入った時から
既に芝居は始まっていたとも云えるシチュエーション。
観客は、このお芝居の観客であるとともに、レストランのお客さん
という出演者でもあるわけです。
レストランシアターでは、よくある技法ではありますが、その始まりが
あまりにも自然で、みんな全く気付いていないし!
私の隣にいたおじさまは「え、始まったの?こんなの初めてだわ!」と
驚いてました(笑)

とあるレストランでクリスマスに巻き起こる4人の男女の悲喜こもごも。

キザで自信家の40歳芸能プロダクション社長(合田さん)と、朴訥とした
でも負けず嫌いの50歳弁護士(由地さん)は、図らずもクリスマスの日、
このレストランの看板娘(遊佐さん)を巡り、笑ってしまうほど
切ない中年の哀愁を漂わせながら、恋の鞘当を繰り広げることに。

もー、この中年男のいがみ合いが情けないったらありゃしない(笑)
男性ってのは、いつまで経っても中学男子の思考回路から成長しない
のだなぁ〜と、笑わせてくれます。

見栄の張り合い、なんとか相手を蹴落とそうとする姑息さ・・・
でも、惚れた女性のためなら、たとえ火の中水の中ってな具合の必死さ。

そんな二人が、限りなくダサくって。でも愛おしくって(^^;

途中から、弁護士の離婚した妻(小山さん)が登場し、物語は思わぬ
方向へ発展していくわけですが・・・

この元・妻、男二人の重大な秘密を知っている。

実は、弁護士と言っていた男は、職を失い自分を見失い、家族をも
失ってしまった、寂しい男(今は日雇い労働者)
そして、社長と名乗る男は、この元・妻が働く会社へ出入りしている
バイク便。芸能界へ憧れ歌手を目指していたものの、志半ばで夢破れ、
齢40の今でもフリーター。

二人がこのレストランで塗り固めてきたメッキが、こともあろうか
クリスマスの日、意中の女性の前、恋のライバルの前で、脆くも剥がれ
落ちてしまったのです。

綺麗さっぱりメッキを剥がされた男二人は、まるで幼い男児のように、
素直に己のいきさつを白状します。

うーん。これだな。これがイカンのだな。女性は男性よりうんと先に
大人になるし、母性本能というものを持ち合わせている。
子供のような男を目の前にすると、呆れるどころか、愛おしいという
感情がつよくなってしまうのですよね。

だから、ダメ男にひっかかる(笑)

というわけで、日雇い労働者と元・妻は復縁。そして、看板娘と
バイク便の間にはなにやら芽生えたようで・・・
という、ふんわりとしたムードでエンディング。

とてもオーソドックスな男女のコメディですが、役者さんたちの呼吸が
バツグンに合っていて、間がすごく心地いい。
終始爆笑の中には、女性の優しさ、男性の直向さ、
そして世相の空しさを思わせる台詞も散りばめられていて。
加えて、親密な客席の空気も心地よいものでした。
狭い空間に身を寄せ合い、他人と小さなテーブルを囲み。
そこには自然と会話が生まれます。そして笑いの一体感。
大人の芝居を見たなぁ〜という、満足感で満たされました。

どんなにカッコつけてもカッコつかない中年男二人が、
ほの甘いシチュエーション。ちょっとオシャレでカッコよく
見えてしまったり・・・とってもチャーミングな一幕デシタ。

1時間ほどの短いお芝居でしたが、充実感ハンパなし!(笑)
2800円なんて安さで見せては勿体無い。
倍払っても全く惜しくはないと 感じました。

あの狭い空間を、少人数で共有しあってこその醍醐味なんだけど、
もっともっとたくさんの人に見て欲しいと思えるお芝居です。

由地さん、日常生活に支障はないのか?っていうか自分で切ったのか?
と、思ってしまうザンギリ頭に、イマドキそんなのどこで売っている
んだろう・・・という、謎のゴルフ柄のトレーナーで、
ダサダサおっさん臭全開(失礼!)
行動言動共に怪しすぎて、全ての挙動に爆笑させていただきました。
好きだわー、由地さん。
今まで、水戸黄門で演じる「性格の悪い剣豪」(^^;のイメージが
強かったので、お茶目さが際立って大変チャーミングな印象。
緩急の付け方が上手で、ひたすら三枚目でもダレることがなく、
飽きさせない魅力がありました。

そしてそして、合田さん。
・・・ズルいよ。完全に出オチだし、カッコよすぎてヘンな人だし。
とにかくヘンな人だし、キザ過ぎるし、カッコいいし、踊るし歌うし
アピアノだし、犬柄のポーチが気になるし(笑)
砕けてるというか、ぶっ飛んでる。演歌歌手を目指していたという設定で、
途中、津軽ドドンパというナゾの演歌を披露するんですが、
無駄に巧すぎまして(^^;大爆笑してしまいました。
いいなぁ、やっぱり。合田さんのお芝居好きだわぁ。
前代未聞のケッタイな役柄でしたが、おもしろすぎた!
来春は早々からハンチョウ。そして2月のポワロに3月の水戸黄門
お馴染みの役から、アガサ戯曲の登場人物まで。
どんな表情を見せていただけるか、ワクワクします。