カンゲキ記

夢のひとときに感謝

三越劇場『リア王2017』

きっとゴネリルは美形の年下が好きなのです。
恐らくオールバニはゴネリルより年下。
やんごとなきご身分のご子息で、その家柄と人柄を
買われてお婿になったのです。大人しくて美しい
年下夫にゴネリルも最初は可愛いと思っていたのかも
しれません。が、これが意外と頑固者で曲がったことが
嫌い。融通の効かない性格にどこか父の姿を見るような
思いもありウンザリしていたのではなかと思います。
オールバニオールバニで、ゴネリルとは好きあって
結婚したワケでもないので、どうでもいいって雰囲気。

そこで、ゴネリルはもっと若くて美しく柔軟な頭を持つ
エドマンドに心惹かれる。


リーガンは野心家で強い男が好きなのです。
リーガンとコーンウォールは好きあって結婚したのでしょう。
オールバニの話だと、コーンウォールはそれほど高い身分
ではないところから今の地位を手に入れた男らしい。
リーガンはそのワイルドさに惹かれ、コーンウォール
彼女の美貌とそして何より家柄に惹かれ結婚したのでしょう。

しかし、そんな夫は突然この世を去ってしまった。

夫の重臣として控える、若くて強くて野心家のエドマンド。
彼女が彼に惹かれるのは必然のように思われます。


オールバニコーンウォールは、対外的には極めて普通で
特段問題のない義兄弟の間柄に思われます。
しかし、物静かで頼りなげな義兄をどこかでバカにしており、
次の王は自分だと虎視眈眈狙っているコーンウォール
それを理解しており、蔭では義弟の事を冷ややかに蔑んでいるオールバニ
お互いに言葉を交わす場面はないけれど、二人の態度から
そのような空気を感じ取ることができました。


ホワイエで購入した台本を読みながら、舞台を反芻しております。
リアを始め、各人物の声が動きが鮮明に思い出されます。

 

オールバニ公の
「走れ!走れ!飛んで行け!」
なぜか毎回この言い方にグッときてました。
ほんとーに切羽詰っている感じが凄かった。
あれだけ個性豊かな変人(爆)ばかりの中で、ごくごくフツーそうな人を
負けない存在感で。でも、あくまでリアルに。

リーガンに「夫が欲しいなら私でどうだ?」とか、エドマンドに「私生児殿」
と蔑んでみるなどたっぷりの皮肉。なんかそれすら上品で(^^;

「アンタ今までそんなこと言う人でしたっけ?」

と言わんばかりに鳩豆で悔しそうな表情のリーガンとエドマンドも
よかったなぁ~。

楽日のゴネリルとオールバニ公のやり取り。
罵り合いの最中(爆)なんですけど、ゴネリルの肩にグッと手を置く公。
猫なで声で公の腰に手を回すゴネ様。
その瞬間のご両人。恐ろしく艶っぽくて。
決して甘やかな場面ではないのですが、ドキドキしてしまいました。

ゴネリルが自害したと知らされた時の一瞬の狼狽。
そこにあったのは妻に対する愛情だったのか、もっとも罪深いとされる
自害という行為への慄きだったのか。

 

静かに降りる緞帳と、その後ろで空を仰ぐオールバニ公の
悲哀に満ちたシルエットが瞼の裏に焼き付いています。

 

悪人も善人も登場人物全員がとてもチャーミングに感じられたなぁ。
皆どこかに人間臭さをチラつかせていたからかなぁ。
それが縺れに縺れて螺旋状に墜ちていくのが
シェイクスピアの悲劇の救いようのなさと滑稽さだと思います。
私たちは身に詰まされるのです。生きることは残酷だなと感じます。

横内さんのリア王、来年もぜひ上演していただきたい。
リアは本当に困ったおじいさんだけど、愛すべきおじいさんでした。

…この歳になると、ゴネリル&リーガンの気持ちにも少しは共感
してしまいます(笑)

 


大楽のカテコ後トークは、そりゃぁもう贅沢で楽しくて。

 

濃密な時間でしたー。